六 反語格の語法
語勢を強めるために、特に反語法を用いる。
1. 反語副詞を用いたもの
豈(あニ)
- 吾豈匏瓜也哉。焉能繫而不食。(『論語』陽貨)
〔吾れ豈に匏瓜也らん哉。焉んぞ能く繫り而食われ不らん。〕 - 雖有臺池鳥獸、豈能獨樂哉。(『孟子』梁恵王上)
〔臺池鳥獸有りと雖も、豈に能く獨り樂しまん哉。〕 - 夫豈不義而曾子言之。(『孟子』公孫丑下)
〔夫れ豈義あら不して曾子之を言わんや。〕 - 夫道、若大路然。豈難知哉。(『孟子』告子上)
〔夫れ道は、大路の若く然り。豈知り難からんや。〕
何(なんゾ)
- 子貢對曰、賜也何敢望回。(『論語』公冶長)
〔子貢對えて曰く、賜也何ぞ敢えて回を望まん。〕 - 對曰、然則廢釁鐘與。曰、何可廢也。(『孟子』梁恵王上)
〔對えて曰く、然らば則ち鐘に釁るを廢む與。曰く、何ぞ廢む可き也や。〕
曷(なんゾ)
- 口耳之間、則四寸耳、曷足以美七尺之軀哉。(『荀子』勧学)
〔口耳之間、則し四寸耳、曷ぞ以て七尺之軀を美るに足らん哉。〕 - 天下曷敢有越厥志。(『孟子』梁恵王下)
〔天下曷ぞ敢えて厥の志を越ゆること有らん、と。〕
胡(なんゾ)
- 君子胡不慥慥爾。(『中庸』)
〔 君子胡んぞ慥慥爾たらざらん、と。〕 - 帰去来兮。田園将蕪、胡不帰。(陶淵明「帰去来辞」)
〔帰りなんいざ。田園将に蕪れんとす、胡ぞ帰ら不る。〕
奚(なんゾ)
- 子奚不爲政。(『論語』為政)
〔子奚ぞ政を爲さ不る。〕 - 奚暇治禮義哉。(『孟子』梁恵王上)
〔奚んぞ禮義を治むるに暇あらんや。〕
寧(なんゾ/いづくんゾ)
- 王侯將相、寧有種乎。(『十八史略』)
〔王侯將相、寧ぞ種有らん乎。〕 - 寧能處小朝廷求活耶。(胡詮「上高宗封事」)
〔寧ぞ能く小朝廷に處りて活きるを求めん耶。〕
安(いづくんゾ)
- 燕雀安知鴻鵠之志哉。(『十八史略』)
〔燕雀安ぞ鴻鵠之志を知らん哉。〕 - 此獨大王之雄風耳、庶人安得共之。(蘇轍「黄州快哉亭記」)
〔此れ獨り大王之雄風耳、庶人安ぞ得て之を共にせん。〕
惡(悪)(いづくんゾ)
- 以小易大、彼惡知之。(『孟子』梁恵王上)
〔小を以て大に易う、彼れ惡ぞ之を知らん。〕 - 夫撫劍疾視曰、彼惡敢當我哉。(『孟子』梁恵王下)
〔夫れ劍を撫え疾み視て曰く、彼惡んぞ敢えて我に當たらんや、と。〕
焉(いづくんゾ)
- 里仁爲美。擇不處仁、焉得知。(『論語』里仁)
〔里の仁は美しと爲す。擇びて仁に處ら不んば、焉ぞ知を得ん。〕 - 後生可畏、焉知來者之不如今也。(『論語』子罕)
〔後生畏る可し、焉ぞ來たる者之今に如か不るを知らん也。〕
烏(なんゾ/いづくんゾ)
- 烏睹其為快也哉。(蘇轍「黄州快哉亭記」)
〔烏ぞ其れ快を為すを睹る也らん哉。〕 - 烏有城壞其徒倶死、獨蒙愧恥求活。(韓愈「張中丞傳後敘」)
〔烏ぞ城懐れてその徒倶に死するに、独り愧恥を蒙りて活きるを求むる有らんや。〕
詎(いやシクモ・いずくんゾ)
- 聊試仰首一鳴號焉、庸詎知有力者不哀其窮。(韓愈「應科目時與人書」)
〔聊か試みに首を迎げて一たび鳴号せんか、庸詎ぞ力有る者の其の窮まるを哀れみん。〕 - 天下詎可知、而閉長者乎。(『後漢書』光武帝紀)
〔天下詎ぞ知り、し而長者を閉す可き乎。〕
庸(なんゾ/いづくんゾ)
- 從者皆國器、此天所置、庸可殺乎。(『史記』晋世家)
〔從者は皆な國器なり、此れ天の置く所、庸ぞ殺す可けん乎。〕 - 吾師道也、夫庸知其年之先後生於吾乎。(韓愈「師説」)
〔吾師は道也、夫れ庸ぞ其の年之先後を知りて吾於生かさん乎。〕
巨(あニ/なんゾ)
- 沛公不先破關中兵、公巨能入乎。(『十八史略』)
〔沛公先に關中の兵を破ら不らば、公巨ぞ能く入らん乎。〕
上記の派生として、このほか、何爲、奚爲、曷爲、何以、庸詎などのように、二字相合して反語格を作ることがある。