五 較量格の語法
事物の大小・優劣・長短・得失などの比例較量を言い表す語法にも、諸種の用例がある。
於・于・乎
於・于・乎(よリ)
この三字は受身にも用いられるので、混同しないように注意。
- 民之於仁也、甚於水火。(『論語』衛霊公)
〔民之仁に於ける也、水火於りも甚だし。〕 - 負棟之柱、多於南畝之農夫。(杜牧「阿房宮賦」)
〔棟を負える之柱は、南畝之農夫於も多し。〕 - 靑出于藍而靑于藍、冰水爲之而寒于水。(『荀子』勧学)
〔靑は藍于り出で而藍于り靑く、冰は水之を爲り而水于り寒し。〕 - 道莫大乎仁義。敎莫正乎禮樂刑政。(韓愈「送文暢序」)
〔道は仁義乎り大なるは莫し。敎えは禮樂刑政乎り正しきは莫し。〕 - 孝子之至、莫大乎尊親。(『孟子』万章)
〔孝子之至るは、親を尊ぶ乎り大なるは莫し。〕
與(与)・寧
與(与)(よリ)・寧(むしロ)
- 與其譽堯而非桀,不如兩忘而化其道。(『荘子』大宗師)
〔其の譽れ堯にし而桀に非ざる與りは、兩に忘れ而其の道を化うるに如か不。〕 - 與吾得革車千乘、不如聞行人燭過之一言也。(『韓非子』難二)
〔吾革車千乘を得る與り、行人燭過之一言を聞くに如か不る也。〕 - 寧爲鷄口、無爲牛後。(『十八史略』戦国)
(寧ろ鷄口と爲るも、牛後を爲る無かれ。) - 晉政多門、不可從也、寧事齊楚、有亡而已。(『春秋左氏伝』成公)
〔晉の政は門多し、從う可から不る也、寧ろ齊楚に事えば、亡び有る而已。〕
與(与)…寧/無寧(よリ~むしロ)
- 禮與其奢也、寧儉。喪與其易也、寧戚。(『論語』八佾)
〔禮は其の奢らん與り也、寧ろ儉め。喪は其の易う與り也、寧ろ戚め。〕 - 與其有聚斂之臣、寧有盗臣。(『大学』)
〔其の聚斂之臣有らん與りは、寧ろ盗臣有れ。〕 - 與其死於臣之手也、無寧死於二三子之手乎。(『論語』子罕)
〔其れ臣之手於死する與り也、寧ろ二三子之手於死する無からん乎。〕
與(与)…豈若(よリハ…あニしカン)
- 與其從辟人之士、豈若從辟世之士哉。(『論語』微子)
〔其の人を辟くる之士に從う與り、豈に世を辟くる之士に從うに若かん哉。〕 - 與我處畎畝之中、由是以樂堯舜之道、吾豈若使是君為堯舜之君哉。(『孟子』万章上)
〔我畎畝之中に處り、是に由りて以て堯舜之道を樂まん與りは、吾豈に是の君を使堯舜之君為らしむるに若かん哉。(畎畝:ケンポ・畎は田の間の溝、畝はうね。)〕
與(与)其…孰若(そノよリハ…スルニいずレゾ)
- 與其有譽於前、孰若無憂於後。(韓愈「送李愿歸盤谷序」)
〔其の前於譽れ有る與りは、後於憂無からんに孰若れぞ(や)。〕 - 與其有樂於身、孰若無憂於其心。(同上)
〔其の身於樂有る與りは、其の心於憂い無きに孰若れぞ(や)。〕
孰與(与)(いずレゾ)
- 沛公曰、孰與君少長。(『史記』項羽紀)
〔沛公曰く、君と少長孰與れぞ(や)。〕 - 此孰與身伏鈇質、妻子為僇乎。(同上)
〔此れ身の鈇質に伏すと、妻子の僇さ為る乎孰與れぞ(や)。(鈇質:フシツ・まさかり。刑具。)〕
焉
焉(これよリ)
- 禹聞善言則拜。大舜有大焉。(『孟子』公孫丑上)
〔禹は善言を聞かば則ち拜めり。大舜は焉り大なる有り。〕 - 上有好者、下必有甚焉者矣。(『孟子』滕文公上)
〔上好む者有らば、下必ず焉り甚しき者有り矣。〕 - 强恕而行、求仁莫近焉。(『孟子』尽心)
〔强めて恕にし而行わば、仁を求むるの焉り近きは莫し。〕 - 責善則離、離則不祥莫大焉。(『孟子』離婁上)
〔善を責いらば則ち離る、離るらば則ち不祥焉り大なるは莫し。〕
如・若
不如(しカず)
- 吾嘗終日不食、終夜不寑、以思。無益。不如學也。(『論語』衛霊公)
〔吾れ嘗て終日食らわ不、終夜寑ね不、以て思えり。益無し。學ぶに如か不る也。〕 - 主忠信、無友不如己者。(『論語』学而)
〔忠と信とを主んじ、友の己に如か不る者を無からしめよ。〕
不若・未若(しカず)
- 楚材毎言、興一利不若除一害。(『十八史略』元)
〔楚材毎に言く、一利を興すは一害を除くに若か不。〕 - 未若貧而樂、富而好禮者也。(『論語』学而)
〔未だ貧にし而樂しむに若かざり、富み而禮を好む者也。〕
豈若(あニしカン)
- 吾豈若使是民、爲堯舜之民哉。(『孟子』万章上)
〔吾れ豈に是の民を使て、堯舜之民爲らしむるに若かん哉。〕
- 微管仲、吾其被髮左衽矣。豈若匹夫匹婦之爲諒也、自經於溝瀆、而莫之知也。(『論語』憲問)
〔管仲微せば、吾れ其れ被髮左衽せ矣。豈に匹夫匹婦之諒を爲す也、自れ溝瀆於經れて、し而之れを知る莫きに若かん也。〕