『漢文研究要訣』014:1-4白文訓読と造語法(7)較量格の語法

五 較量格の語法

事物の大小・優劣・長短・得失などの比例較量を言い表す語法にも、諸種の用例がある。

於・于・乎

於・于・乎(よリ)

この三字は受身にも用いられるので、混同しないように注意。

  • 民之於仁也、甚於水火。(『論語』衛霊公
    〔民之仁にける也、水火りも甚だし。〕
  • 負棟之柱、多於南畝之農夫。(杜牧「阿房宮賦」
    〔棟を負える之柱は、南畝之農夫於も多し。〕
  • 靑出于藍而靑于藍、冰水爲之而寒于水。(『荀子』勧学)
    〔靑は藍り出で而藍于り靑く、冰は水之を爲り而水于り寒し。〕
  • 道莫大乎仁義。敎莫正乎禮樂刑政。(韓愈「送文暢序」)
    〔道は仁義り大なるは莫し。敎えは禮樂刑政乎り正しきは莫し。〕
  • 孝子之至、莫大乎尊親。(『孟子』万章)
    〔孝子之至るは、親を尊ぶ乎り大なるは莫し。〕

與(与)・寧

與(与)(よリ)・寧(むしロ)

  • 與其譽堯而非桀,不如兩忘而化其道。(『荘子』大宗師)
    〔其の譽れ堯にし而桀に非ざる與りは、兩に忘れ而其の道を化うるに如か不。〕
  • 與吾得革車千乘、不如聞行人燭過之一言也。(『韓非子』難二)
    〔吾革車千乘を得る與り、行人燭過之一言を聞くに如か不る也。〕
  • 寧爲鷄口、無爲牛後。(『十八史略』戦国)
    (寧ろ鷄口と爲るも、牛後を爲る無かれ。)
  • 晉政多門、不可從也、寧事齊楚、有亡而已。(『春秋左氏伝』成公)
    〔晉の政は門多し、從う可から不る也、寧ろ齊楚に事えば、亡び有る而已のみ。〕

與(与)…寧/無寧(よリ~むしロ)

  • 禮與其奢也、寧儉。喪與其易也、寧戚。(『論語』八佾
    〔禮は其の奢らんり也、寧ろ儉め。喪は其の易う與り也、寧ろ戚め。〕
  • 與其有聚斂之臣、寧有盗臣。(『大学』)
    〔其の聚斂之臣有らん與りは、寧ろ盗臣有れ。〕
  • 與其死於臣之手也、無寧死於二三子之手乎。(『論語』子罕
    〔其れ臣之手於死する與り也、寧ろ二三子之手於死する無からん乎。〕

與(与)…豈若(よリハ…あニしカン)

  • 與其從辟人之士、豈若從辟世之士哉。(『論語』微子
    〔其の人を辟くる之士に從う與り、豈に世を辟くる之士に從うにかん哉。〕
  • 與我處畎畝之中、由是以樂堯舜之道、吾豈若使是君為堯舜之君哉。(『孟子』万章上)
    〔我畎畝之中に處り、是に由りて以て堯舜之道を樂まん與りは、吾豈に是の君を使堯舜之君為らしむるに若かん哉。(畎畝:ケンポ・畎は田の間の溝、畝はうね。)〕

與(与)其…孰若(そノよリハ…スルニいずレゾ)

  • 與其有譽於前、孰若無憂於後。(韓愈「送李愿歸盤谷序」)
    〔其の前於譽れ有る與りは、後於憂無からんに孰若いずれぞ(や)。〕
  • 與其有樂於身、孰若無憂於其心。(同上)
    〔其の身於樂有る與りは、其の心於憂い無きに孰若れぞ(や)。〕

孰與(与)(いずレゾ)

  • 沛公曰、孰與君少長。(『史記』項羽紀)
    〔沛公曰く、君と少長孰與れぞ(や)。〕
  • 此孰與身伏鈇質、妻子為僇乎。(同上)
    〔此れ身の鈇質に伏すと、妻子のころ孰與れぞ(や)。(鈇質:フシツ・まさかり。刑具。)〕

焉(これよリ)

  • 禹聞善言則拜。大舜有大焉。(『孟子』公孫丑上)
    〔禹は善言を聞かば則ち拜めり。大舜は焉り大なる有り。〕
  • 上有好者、下必有甚焉者矣。(『孟子』滕文公上)
    〔上好む者有らば、下必ず焉り甚しき者有り矣。〕
  • 强恕而行、求仁莫近焉。(『孟子』尽心)
    〔强めて恕にし而行わば、仁を求むるの焉り近きは莫し。〕
  • 責善則離、離則不祥莫大焉。(『孟子』離婁上)
    〔善をいらば則ち離る、離るらば則ち不祥焉り大なるは莫し。〕

如・若

不如(しカず)

  • 吾嘗終日不食、終夜不寑、以思。無益。不如學也。(『論語』衛霊公
    〔吾れ嘗て終日食らわ不、終夜寑ね不、以て思えり。益無し。學ぶに如か不る也。〕
  • 主忠信、無友不如己者。(『論語』学而
    〔忠と信とを主んじ、友の己に如か不る者を無からしめよ。〕

不若・未若(しカず)

  • 楚材毎言、興一利不若除一害。(『十八史略』元)
    〔楚材つねに言く、一利を興すは一害を除くに若か不。〕
  • 未若貧而樂、富而好禮者也。(『論語』学而
    〔未だ貧にし而樂しむに若かざり、富み而禮を好む者也。〕

豈若(あニしカン)

  • 吾豈若使是民、爲堯舜之民哉。(『孟子』万章上)
    〔吾れ豈に是の民を使て、堯舜之民爲らしむるに若かん哉。〕


  • 微管仲、吾其被髮左衽矣。豈若匹夫匹婦之爲諒也、自經於溝瀆、而莫之知也。(『論語』憲問
    〔管仲なかりせば、吾れ其れ被髮左衽せ。豈に匹夫匹婦之まことを爲す也、自れ溝瀆於くびれて、し而之れを知る莫きに若かん也。〕

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