1.表時格の語法(承前)
未来を表すもの
將(将)(まさニ)
- 將入門、策其馬曰、非敢後也、馬不進也。(『論語』雍也)
〔將に門に入らんとして、其の馬に策て曰く、敢えて後るるに非る也、馬進ま不れば也、と。〕 - 亦將有以利吾國乎。(『孟子』梁恵王上)
〔亦いに將に吾が國を利すを以てする有る乎、と。〕 - 將成家而致汝。(韓愈「祭十二郎文」)
〔將に家を成り而汝に致さん。〕
且(まさニ)
- 不者、若屬皆且為所虜。(『史記』項羽紀)
〔不者、若が屬皆且に虜となる所と為らん。〕 - 外無待而猶死守、人相食且盡。(韓愈「張中丞伝後敍」)
〔外待つ無くし而猶お死守し、人相い食みて且に盡きんとす。〕 - 兀朮且死曰、南朝軍勢强甚。宜益加和好。(『十八史略』宋高宗)
〔兀朮且に死せんとして曰く、南朝の軍勢强きこと甚し。宜く益す和好を加うべし。〕
將(将)・且はともに近い将来を示す副詞を助動詞を兼ねた語である。必ず「まさに…せんとす」と訓読すべきである。ただし次のような例は、数量の推定を表す語として用いられている。
- 今滕、絕長補短、將五十里也、猶可以為善國。(『孟子』滕文公上)
〔今滕は、長を絕ちて短を補わば、將に五十里也、猶お以て善き國為る可し。〕 - 城中居人、戶亦且數萬。(韓愈「張中丞伝後敍」)
〔城中に居れる人、戶も亦た且に數萬ならん。〕 - 其淸而平者、且十畝。(柳宗元「鈷鉧潭記」)
〔其の淸にし而平かなる者、且に十畝ならん。〕
このほかにも、厳密に言えば動作の未来を推定的に言う意味になる場合があるが、一々細説に暇が無い。
欲(ほっス)
- 山雨欲來、風滿樓。(許渾「咸陽城棟樓」)
(山雨來たらんと欲して、風樓に滿つ。) - 山靑花欲然。(杜甫「絶句」)
〔山靑くして花然えんと欲す。〕 - 渾欲不勝簪。(杜甫「春望」)
(渾て簪に勝え不らんと欲す。〕
この例文は、来たらんとす、燃えんとす、勝えざらんとす、というのと意味は同じで、欲求の意味は毫も無い。散文には少ないが、詩に多く用いる。
補遺:『学研漢和大字典』より
当
「まさに~すべし」とよみ、
- 「~すべきである」と訳す。再読文字。当然の意を示す。《類義語》応。
「嗟乎、大丈夫当如此也=嗟乎(ああ)、大丈夫当(まさ)にかくの如(ごと)くなるべきなり」〈ああ、男とはあのようでなくてはならない〉〔史記・高祖〕 - 「きっと~するにちがいない」と訳す。再読文字。期待・推量の意を示す。
「頃之、襄子当出、予譲伏於所当過之橋下=これを頃(しばら)くして、襄子出づるに当たり、予譲当(まさ)に過ぐべき所の橋下に伏す」〈しばらく経ち、襄子の外出を知り、予譲は襄子が通るはずの橋の下に待ち伏せた〉〔史記・刺客〕
応
「まさに~すべし」とよみ、
- 「きっと~であろう」と訳す。再読文字。推量の意を示す。
「君自故郷来、応知故郷事=君故郷自(よ)り来たる、応(まさ)に故郷の事を知るべし」〈あなたは故郷よりやって来られた、故郷のことはきっとご存知でしょうね〉〔王維・雑詩〕 - 「~すべきである」と訳す。再読文字。当然・認定の意を示す。《類義語》当。
「還応雪漢恥、持此報明君=また応(まさ)に漢の恥を雪(すす)いで、これを持して明君に報ずべし」〈ふたたび、わが漢帝国の恥をすすぎ、その功績で賢明なる君主に報いるべきだ〉〔駱賓王・宿温城望軍営〕 - 「~してやりなさい」「~したいと思う」と訳す。再読文字。勧誘・願望の意を示す。《類義語》当・合。
「応憐半死白頭翁=応(まさ)に憐れむべし半死の白頭翁」〈憐れんでやりなさい、半分死にかけた白髪のじいさんを〉〔劉廷芝・代悲白頭翁〕
合
「まさに~すべし」とよみ、
- 「~すべきである」と訳す。再読文字。当然の意を示す。《類義語》当・応。
「名遂合退身=名遂(と)ぐれば合(まさ)に身を退くべし」〈名声を得たならば勇退すべきである〉〔白居易・不致仕〕