『漢文研究要訣』010:1-4白文訓読と造語法(3)表時格の語法

1.表時格の語法(承前)

未来を表すもの

將(将)(まさニ)

  • 將入門、策其馬曰、非敢後也、馬不進也。(『論語』雍也
    〔將に門に入らんとして、其の馬に策て曰く、敢えて後るるに非る也、馬進ま不れば也、と。〕
  • 亦將有以利吾國乎。(『孟子』梁恵王上
    おおいに將に吾が國をすを以てする有る乎、と。〕
  • 將成家而致汝。(韓愈「祭十二郎文」)
    〔將に家をつくり而汝に致さん。〕

且(まさニ)

  • 不者、若屬皆且為所虜。(『史記』項羽紀)
    不者しからずんばなんじうから皆且に虜となる所と為らん。〕
  • 外無待而猶死守、人相食且盡。(韓愈「張中丞伝後敍」)
    〔外待つ無くし而猶お死守し、人相い食みて且に盡きんとす。〕
  • 兀朮且死曰、南朝軍勢强甚。宜益加和好。(『十八史略』宋高宗)
    兀朮且に死せんとして曰く、南朝の軍勢强きこと甚し。宜くますます和好を加うべし。〕

將(将)・且はともに近い将来を示す副詞を助動詞を兼ねた語である。必ず「まさに…せんとす」と訓読すべきである。ただし次のような例は、数量の推定を表す語として用いられている。

  • 今滕、絕長補短、將五十里也、猶可以為善國。(『孟子』滕文公上)
    〔今滕は、長を絕ちて短を補わば、將に五十里也、猶お以て善き國為る可し。〕
  • 城中居人、戶亦且數萬。(韓愈「張中丞伝後敍」)
    〔城中に居れる人、戶も亦た且に數萬ならん。〕
  • 其淸而平者、且十畝。(柳宗元「鈷鉧潭記」)
    〔其の淸にし而平かなる者、且に十畝ならん。〕

このほかにも、厳密に言えば動作の未来を推定的に言う意味になる場合があるが、一々細説に暇が無い。

欲(ほっス)

  • 山雨欲來、風滿樓。(許渾「咸陽城棟樓」)
    (山雨來たらんと欲して、風樓に滿つ。)
  • 山靑花欲然。(杜甫「絶句」)
    〔山靑くして花然えんと欲す。〕
  • 渾欲不勝簪。(杜甫「春望」)
    すべかんざしに勝え不らんと欲す。〕

この例文は、来たらんとす、燃えんとす、勝えざらんとす、というのと意味は同じで、欲求の意味は毫も無い。散文には少ないが、詩に多く用いる。


補遺:『学研漢和大字典』より

「まさに~すべし」とよみ、

  1. 「~すべきである」と訳す。再読文字。当然の意を示す。《類義語》応。
    「嗟乎、大丈夫当如此也=嗟乎(ああ)、大丈夫当(まさ)にかくの如(ごと)くなるべきなり」〈ああ、男とはあのようでなくてはならない〉〔史記・高祖〕
  2. 「きっと~するにちがいない」と訳す。再読文字。期待・推量の意を示す。
    「頃之、襄子当出、予譲伏於所当過之橋下=これを頃(しばら)くして、襄子出づるに当たり、予譲当(まさ)に過ぐべき所の橋下に伏す」〈しばらく経ち、襄子の外出を知り、予譲は襄子が通るはずの橋の下に待ち伏せた〉〔史記・刺客〕

「まさに~すべし」とよみ、

  1. 「きっと~であろう」と訳す。再読文字。推量の意を示す。
    「君自故郷来、応知故郷事=君故郷自(よ)り来たる、応(まさ)に故郷の事を知るべし」〈あなたは故郷よりやって来られた、故郷のことはきっとご存知でしょうね〉〔王維・雑詩〕
  2. 「~すべきである」と訳す。再読文字。当然・認定の意を示す。《類義語》当。
    「還応雪漢恥、持此報明君=また応(まさ)に漢の恥を雪(すす)いで、これを持して明君に報ずべし」〈ふたたび、わが漢帝国の恥をすすぎ、その功績で賢明なる君主に報いるべきだ〉〔駱賓王・宿温城望軍営〕
  3. 「~してやりなさい」「~したいと思う」と訳す。再読文字。勧誘・願望の意を示す。《類義語》当・合。
    「応憐半死白頭翁=応(まさ)に憐れむべし半死の白頭翁」〈憐れんでやりなさい、半分死にかけた白髪のじいさんを〉〔劉廷芝・代悲白頭翁〕

「まさに~すべし」とよみ、

  1. 「~すべきである」と訳す。再読文字。当然の意を示す。《類義語》当・応。
    「名遂合退身=名遂(と)ぐれば合(まさ)に身を退くべし」〈名声を得たならば勇退すべきである〉〔白居易・不致仕〕

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