『漢文研究要訣』008:1-4白文訓読と造語法(1)表時格の語法

前章すでに各種の句法から訓読を試みる方法を略述したから、本章ではさらに各種の語法から白文訓読をきわめていく。ここでは凡そ九種について略述する。

  1. 表時格の語法。
  2. 使役格の語法。
  3. 受身格の語法
  4. 推定格の語法。
  5. 較量格の語法。
  6. 反語格の語法。
  7. 打消格の語法。
  8. 二重打消格の語法。
  9. 打消格と副詞との関係。

1.表時格の語法

漢文で現在、過去、未来の時を表すには、副詞または助動詞を、動詞または形容詞の上に冠して、適宜に限定または修飾する。

  1. 現在を表すもの。
    今、方…など。
  2. 過去を表すもの。
    既・已・業・嘗・曽(曾)・嚮…など。
  3. 未来を表すもの
    将・且・欲…など。

その他、単に動詞や形容詞だけで、時制を表す場合が多い。その場合は前後の文脈から判断して訓読しなくてはならない。

現在を表すもの

今(いま)

  • 今夫顓臾、固而近於費。今不取、後世必爲子孫憂。(『論語』季氏
    〔今夫れ顓臾センユ、固よりし而費於近し。今取ら不らば、後の世必ず子孫の憂いと爲らん。〕
  • 鄉爲身死而不受、今爲宮室之美爲之。(『孟子』告子)
    〔鄉には身の死するが爲にし而も受け不、今は宮室之美の爲に之を爲す。〕
  • 今者薄暮、擧網得魚。 巨口細鱗、狀如松江之鱸。(蘇軾「後赤壁賦」)
    〔今薄暮、網を擧げて魚を得。 巨口細鱗、狀は松江之鱸の如し。〕
  • 今南方已定、兵甲已足。(『十八史略』引用:諸葛亮「出師表」)
    〔今南方已に定り、兵甲已に足る。〕

方(まさニ)

  • 項羽方渡河、救趙。(『史記』項羽紀)
    〔項羽方に河を渡り、趙を救わんとす。〕
  • 國子司業楊君巨源、方以能詩、訓後進。(韓愈「送楊少尹序」)
    〔國子司業の楊君巨源*、方に詩を能くするを以て、後進をおしえんとす。〕
  • 朕方以至誠治天下。(『十八史略』唐太宗)
    〔朕方に至誠を以て天下を治めんとす。〕
  • 然創業之難往矣。守成難、方與諸公愼之。(『十八史略』唐太宗)
    〔然るに創業之難往け。守成難、方に諸公與之を愼まんとす。〕

*國子司業は国子監=国立首都大学の教官。楊巨源は新旧の唐書に伝が無く、芸文志に景山というあざ名が記されていると言う、『唐宋八家文読本』より。


この「方」と同じ意味で「鼎」を用いたものがままあり、注意を要する。

  • 天子春秋鼎盛。(『漢書』賈誼伝)
    〔天子の春秋まさに盛んなり。〕
  • 〔石〕顯鼎貴、上信用之。(『漢書』賈捐伝)
    〔石顯鼎に貴し、上之を信用せり。〕

そのほか、「方今」「如今」「当(當)今」「現今」など、熟語にして用いた例も多い。

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