前章すでに各種の句法から訓読を試みる方法を略述したから、本章ではさらに各種の語法から白文訓読を講めていく。ここでは凡そ九種について略述する。
- 表時格の語法。
- 使役格の語法。
- 受身格の語法
- 推定格の語法。
- 較量格の語法。
- 反語格の語法。
- 打消格の語法。
- 二重打消格の語法。
- 打消格と副詞との関係。
1.表時格の語法
漢文で現在、過去、未来の時を表すには、副詞または助動詞を、動詞または形容詞の上に冠して、適宜に限定または修飾する。
- 現在を表すもの。
今、方…など。 - 過去を表すもの。
既・已・業・嘗・曽(曾)・嚮…など。 - 未来を表すもの
将・且・欲…など。
その他、単に動詞や形容詞だけで、時制を表す場合が多い。その場合は前後の文脈から判断して訓読しなくてはならない。
現在を表すもの
今(いま)
- 今夫顓臾、固而近於費。今不取、後世必爲子孫憂。(『論語』季氏)
〔今夫れ顓臾、固よりし而費於近し。今取ら不らば、後の世必ず子孫の憂いと爲らん。〕 - 鄉爲身死而不受、今爲宮室之美爲之。(『孟子』告子)
〔鄉には身の死するが爲にし而も受け不、今は宮室之美の爲に之を爲す。〕 - 今者薄暮、擧網得魚。 巨口細鱗、狀如松江之鱸。(蘇軾「後赤壁賦」)
〔今者薄暮、網を擧げて魚を得。 巨口細鱗、狀は松江之鱸の如し。〕 - 今南方已定、兵甲已足。(『十八史略』引用:諸葛亮「出師表」)
〔今南方已に定り、兵甲已に足る。〕
方(まさニ)
- 項羽方渡河、救趙。(『史記』項羽紀)
〔項羽方に河を渡り、趙を救わんとす。〕 - 國子司業楊君巨源、方以能詩、訓後進。(韓愈「送楊少尹序」)
〔國子司業の楊君巨源*、方に詩を能くするを以て、後進を訓えんとす。〕 - 朕方以至誠治天下。(『十八史略』唐太宗)
〔朕方に至誠を以て天下を治めんとす。〕 - 然創業之難往矣。守成難、方與諸公愼之。(『十八史略』唐太宗)
〔然るに創業之難往け矣。守成難、方に諸公與之を愼まんとす。〕
*國子司業は国子監=国立首都大学の教官。楊巨源は新旧の唐書に伝が無く、芸文志に景山というあざ名が記されていると言う、『唐宋八家文読本』より。
この「方」と同じ意味で「鼎」を用いたものがままあり、注意を要する。
- 天子春秋鼎盛。(『漢書』賈誼伝)
〔天子の春秋鼎に盛んなり。〕 - 〔石〕顯鼎貴、上信用之。(『漢書』賈捐伝)
〔石顯鼎に貴し、上之を信用せり。〕
そのほか、「方今」「如今」「当(當)今」「現今」など、熟語にして用いた例も多い。