三 承逓法
承逓法とは別名連語、または逓句ともいう。上句の尾を承けて、下句の首となし、順次に承接逓下して、円転流暢の文を成すものである。例えば次の通り。
- 唯天下至誠為能盡其性能盡其性則能盡人之性能盡人之性則能盡物之性能盡物之性則可以贊天地之化育可以贊天地之化育則可以與天地參矣(『中庸』)
- 唯天下至誠、為能盡其性。
- 能盡其性、則能盡人之性。
- 能盡人之性、則能盡物之性。
- 能盡物之性、則可以贊天地之化育。
- 可以贊天地之化育、則可以與天地參矣。
唯だ天下の至誠のみ、能く其の性を盡すを為す。能く其の性を盡さば、則ち能く人之性を盡す。能く人之性を盡さば、則ち能く物之性を盡す。能く物之性を盡さば、則ち以て天地之化育を贊く可し。以て天地之化育を贊く可からば、則ち可以て天地與參矣。
天地參矣:金谷本によると、人間独自の役割を果たして、天地と並び立って三となること。
次の例。
- 唯器與名不可以假人君之所司也名以出信信以守器器以藏禮禮以行義義以生利利以平民政之大節也(『春秋左氏伝』成公)
- 唯器與名、不可以假人、君之所司也。
- 名以出信、信以守器。
- 器以藏禮、禮以行義。
- 義以生利、利以平民。
- 政之大節也。
唯だ器與名は、以て人に假す可から不、君之司る所也。名は以て信を出だし、信は以て器を守り、器は以て禮を藏め、禮は以て義を行い、義は以て利を生み、利は以て民を平ぐ。政之大節也。
次の例。これは句を隔てているが、一種の承逓法である。
- 在下位不獲乎上民不可得而治矣獲乎上有道不信乎朋友不獲乎上矣信乎朋友有道不順乎親不信乎朋友矣順乎親有道反諸身不誠不順乎親矣誠身有道不明乎善不誠乎身矣(『中庸』)
- 在下位、不獲乎上、民不可得而治矣。
- 獲乎上有道、不信乎朋友、不獲乎上矣。
- 信乎朋友有道、不順乎親、不信乎朋友矣。
- 順乎親有道、反諸身不誠、不順乎親矣。
- 誠身有道、不明乎善、不誠乎身矣。
下位に在りて上乎獲不らば、民は得而治む可から不る矣。上乎獲るに道有り、朋友乎信ぜられ不らば上乎獲不る矣。朋友乎信ぜらるるに道有り、親乎順わ不らば朋友乎信ぜられ不る矣。親乎順うに道有り、諸を身に反りて誠なら不らば、親乎順わ不る矣。身に誠なるに道有り、善乎明か不らば身乎誠なら不る矣。
次の例は最もよく分かるものである。
- 知止而后有定、定而后能靜、靜而后能安、安而后能慮、慮而后能得。(『大学』)
〔止まるを知り而后定まる有り、定まり而后能く靜かなり、靜かなり而后能く安らかなり、安らかなり而后能く慮り、慮り而后能く得。〕 - 其次致曲。曲能有誠。誠則形、形則著、著則明、明則動、動則變、變則化。唯天下至誠、為能化。(『中庸』)
〔其の次は曲を致す。曲に能く誠有り、誠ならば則ち形り、形らば則ち著るしく、著るしからば則り明かなり、明ならば則ち動き、動かば則ち變り、變らば則ち化う。唯だ天下至誠のみ、能く化うるを為す。 - 故君子不可以不修身。思修身、不可以不事親。思事親、不可以不知人。思知人、不可以不知天。(『中庸』)
〔故に君子以て身を修め不る可から不。修身を思わば、以て親に事え不る可から不。親に事えるを思わば、以て人を知ら不る可から不。人を知るを思わば、不可以て天を知ら不る可から不。〕 - 可與共學、未可與適道。可與適道、未可與立。可與立、未可與權。(『論語』子罕)
〔與に學ぶを共にす可きも、未だ與に道を適く可からず。與に道を適く可きも、未だ與に立つ可からず。與に立つ可きも、未だ與に權る可からず。〕