『標準漢文法』035:2-1-2L形式名詞の小分(3)

第二節 名詞の小分〔承前〕

単純形式名詞〔承前〕

者〔承前〕

三「者」が原因理由を指す場合
  • 上曰、吾將西遷、欲據山河之勝、而去冗兵。(『十八史略』宋太祖)
    〔上曰く、吾将に西に遷らんとする者は、山河之勝に拠って、し而冗兵を去らんと欲すればなり。〕
  • 虞公之兵殆而地削何也。(『韓非子』十過)
    〔虞公之兵殆うくし而地を削らるる者は何ぞ也。〕
  • 天下有明主則諸侯不得擅厚、何也。為其割榮也。(『史記』范睢蔡澤伝)
    〔天下明主有らば、則ち諸侯の擅に厚きを得不る者は、何ぞ也。其の栄えを割くが為め也。〕

この場合に上の動詞の上に「所以」があれば、「者」の意義が明確になる。

麟之爲麟、以德不以形。(韓愈「獲麟解」)
〔麟之以て麟る所の者は、徳を以てし形を以てせ不。〕

これは、「者」は  なる作用の理由を表す。しかし上の「所」という詞の表す事物を指すのであるから、厳密に言えば■次の七の用法である。

四「者」が方法物を表す場合
  • 丘之說我、若告我以鬼事、則我不能知也。(『荘子』盜跖)
    〔丘之以て我に説く所の者は、我に告ぐるに鬼を以て事えるが若からば、則ち我知る能わ不る也。〕
  • 若此者非愈之所能也。抑而行之、必發狂疾、上無以承事于公、忘其將報德、下無以自立、喪失其所以爲心。(韓愈「上張僕射書」)
    〔此の若き者は、愈之能くする所に非ざる也。抑え而之を行わば、必ずや狂疾を発し、上は以て公于承事する無く、其の将に徳に報ゆる所以とならんを忘れ、下は以て自立する無く、其の心を為す所以となる所を喪失せん。〕

「者」が  なる動作の方法物を表すのであるが、厳密に言えば、この用法は■次にある七の用法である。何となれば、上の「所」が事物を表し、「者」は「所」を指すのだからである。

五「者」が事件そのものを表す場合
  • 子房不忍忿忿之心、以匹夫之力、而逞於一擊之間。當此之時、子房之不死、其間不能容髪、蓋亦已危矣。(蘇東坡「留候論」)
    〔子房忿忿の心を忍ば不、匹夫之力を以て、し而一擊之間於逞しくす。当に此之時、子房之死せ不る者は、其の間は髪を容れる能わ不る、蓋し亦いに已に危うき矣。〕
  • 非有平生之素、卒然相遇於草野之閒、而命以僕妾之役、油然而不怪、此固秦皇帝之所不能驚、而項籍之所不能怒也。(同上)
    〔平生之素有るに非ざりて、卒然として草野之間於相遇し、し而僕妾之役を以て命じ、油然とし而怪しまれ不る者、此れ固より秦皇帝之驚く能わざる、し而項籍之怒る能わ不る所なり。〕
  • 人上壽百歲、中壽八十、下壽六十、除病瘦、死喪、憂患、其中開口而笑、一月之中不過四五日而已矣。(『荘子』盜跖)
    〔人の上寿は百歳、中寿は八十、下寿は六十、病瘦、死喪、憂患を除かば、其中口を開け而笑う者は、一月之中四五日に過ぎ不る而已矣。〕
  • 登斯樓也、則有去國懷郷憂讒畏譏滿目蕭然感極而悲矣。(范仲淹「岳陽樓記」)
    〔斯の楼に登る也、則ち国を去り郷を懐い讒りを憂い譏りを畏れ満目蕭然たるの感極り而悲き者矣。〕
  • 勾踐之困於會稽、而歸臣妾於吳、三年而不倦。(蘇東坡「留候論」)
    〔勾践之会稽於困しみ、し而臣妾たりて呉於帰しめん者は、三年にし而倦ま不。〕
  • 夫天下未嘗無賢者、蓋有有臣而無君矣。威公在焉,而曰天下不復有管仲,吾不信也。(蘇洵「管仲論」)
    〔夫れ天下未だ嘗て賢者無くんばあらず、蓋し臣有り而君無き者有る矣。威公在り焉、し而曰く、天下復た管仲なる者有ら不と、吾れ信ぜ不る也。〕

これら皆「もの」と読んでも、意味は「こと」あるいは「点」の意である。

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