第二節 名詞の小分〔承前〕
種々の代名詞
代名詞は、直接に事物を表示せずに、ある基準との関係によって、間接に之を指示するものである。人称代名詞と位置代名詞の二種は、説話者が自己を基準として、事物を指示するものであるから、これを説話代名詞という事が出来る。しかし代名詞には、この外に説話〔者〕以外のものを基準とする代名詞がある。
「己」の如きは、動作を基準として、その動作の主体を指すものである。例えば「恐民不信己」〔民の己を信ぜざるを恐る〕と言えば、「己」は恐れる人を指す。「己未有善」〔己未だ善有らず〕は、まだ一善を有しない人を指す。「人皆出乎己者反乎己」〔人皆己に出でて己に反る〕と言えば、己はその大主なる「人」を指す。
「甲子」「乙丑」などの類も、干支そのものを指さずに、これによってその歳を指す場合は、順序の代名詞である。「如左」「如右」などの「左」「右」も、方向そのものを指すのでなく、その方向にある事物を指すならば、方向の代名詞である。