『標準漢文法』024:2-1-2A名詞の四種

第二節 名詞の小分

名詞の四種

名詞を分けて、本名詞・代名詞・不定名詞・形式名詞の四種とする。

本名詞

本名詞は、直接に実質的意義を表示する名詞である。常に変動しない実質的意義を持っている名詞である。

例えば「鳥」「獣」「山」「海」「声」「色」「政治」「法律」「日本」「支那」「論語」「孟子」などの類だ。なんぴとが用いても「鳥」と言えば鳥を指し、「獣」と言えば獣を指し、その実質的意義は変わらない。

之に反して「我」「汝」の如きは、孔子が「我」と言えば孔子を指し、孟子が「我」と言えば孟子を指すというように、その実質が変わる。また「誰」「何」などは、実質的意義が不定であるし、「者」「トウ」などは、実質的意義がない。そういうものは本名詞ではない。

世間で名詞と称するものは、大体に於いて本名詞である。

代名詞

代名詞は、或る基準を設けて、それとの関係によって、指示的に間接に実質的意義を表示するものである。それだから実質的意義を持っているが、場合場合によって変動する。例えば「我」「汝」「彼」「此」の類だ。

「我」に実質的意義はあるが、太郎が用いれば太郎のことになり、次郎が用いれば次郎のことになるというように、その指す所が変動する。変動はするが、その指示によってその時だけは一時定まる。

不定名詞

不定名詞は、実質的意義の定まらない名詞である。「何」「誰」「孰」「幾何」「某」「若干」等がそうだ。この中〔で〕「何」「誰」などは、その不定な実質的意義の定まるべきことを予想、或は要求する。之を疑問という。「某」「若干」等は、不定を不定のままにして、その定まるべきを予想しない。之を不問という。

□世間の普通の本では、不定名詞は代名詞の一種とされているが、私はそれはいかんと思う。

太郎と定まり次郎と定まれば、本名詞である。我と定まり汝と定まれば、代名詞である。しかし、「何」「誰」と言っては未定であって、その定まることは、太郎次郎と定まることを予想する場合も、「我」「汝」と定まることを予想する場合もあるのであるから、本名詞・代名詞のいずれへも入れられないものである。

本名詞・代名詞・不定名詞の三種は、いずれも実質的意義があるから、みな実質名詞である。この実質名詞に対して、次の形式名詞がある。

形式名詞

形式名詞は、形式的意義があるだけで、実質的意義のない名詞である。これは日本語には「モノ」「こと」「カタ」「ヤツ」*「わけ」「など」「積もり」「」「ところ」「所以ユエン」「ウチ」「まま」など非常に沢山有るが、漢文には「者」「等」「与」「及」「之」などがあるだけだ。

  • 子曰、道不行乗桴浮於海。従其由也與。(論語公冶長)
    〔子曰く、道行われず。桴に乗りて海に浮かばん。我に従う者は其れ由也るか。〕
  • 今太后擅行不顧、穣侯出使不報、華陽、涇陽撃断無諱。
    〔今太后ほしいままに行いて顧みず、穣侯出使してしらさず、華陽、涇陽など撃断*してはばかる無し。〕

上の「」は人を指すが、実質的意義がない。ただ「者」だけでは意義が具備しないから、上の「従我」で之を補充する。「等」も人を指すが実質的意義がないから、「等」だけでは分からない。そこで上の「華陽、涇陽」で之を補充する。

「者」は訓は「もの」である。「しゃ」と読むと不完辞になるから、形式名詞としての直訳は「もの」でなければならない。「来者」「去者」などを「来るもの」「去る者」と読まずに、「らいしゃ」などと読むと直訳にならない。「等」は「ら」と読むと不完辞*になる。文法的直訳は「ら」ではなく、「とう」或は「など」である。


」:原文、「奴」の下に「者」が記されているが先頭とかぶり、また付いているルビが不明瞭で何を指すか分からないので削除した。
標準漢文法p87

撃断:自分かってにきびしい刑罰を行う。

不完辞とは、他の原辞と結合して共に一詞を成すもので、自己だけでは一詞を成さない原辞である。日本語で言うと、いわゆる助辞、例えば「て」「に」「を」「は」「なり」「たり」「らる」「しむ」などの類や、接頭辞、接尾辞、例えば「み」「さ」「ぶる」「めく」などの類がそうだ。「山に」「山は」「「行きたり」「行かしむ」「み山」「さ夜」「春めく」などのように、他語へ付いて共に一詞を成すので、「に」「は」「なり」「しむ」「み」「さ」だけでは一詞を成さない。
松下大三郎『標準漢文法』009

形式名詞という語は、私の新造である。世間では、形式名詞というものを一向考えていないようだ。英文典などでは、Either, Neither, Both等を代名詞の中へ入れているが、それは形式名詞という名称がないから、自然そうなったので、実は形式名詞である。

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