『標準漢文法』021:2-1-1G複性詞

第一節 品詞(承前)

複性詞

□これまで挙げてきた、名詞・動詞・副体詞・副詞・感動詞の五品詞は、いずれもみなその詞の有する、本然の文法的機能によって分かたれたもので、みな各々一個の性能を有するものである。

即ち名詞は事物を表すという一性能、動詞は作用を叙述するという一性能、副体詞は他の概念の実体に従属する属性を表すという一性能、副詞は他の概念の運用に従属する属性を表すという一性能、感動詞は主観的に思念それ自身を表すという一性能を持っている。その有する性能は、いずれもただ一つである。

それ故この五種は、いずれも単性詞である。ところが詞の中には、一つの詞でありながら、二つ以上の性能を持っているものがある。之を複性詞という。日本語にはそういうものは無いが、漢文にはある。

  • 帰而謀。(蘇東坡後赤壁賦)…(帰而謀之於○○婦)
    〔帰り而これを婦に謀るに〕
  • 邦君之妻、君称之曰夫人、夫人自称曰小童、邦人称之曰君夫人、称異邦寡小君。(『論語』季氏)…(称之於○○異邦)
    〔邦君之妻は、君之を称びて夫人と曰い、夫人自ら称びて小童と曰い、邦人之を称びて君夫人と曰い、諸を異邦に称びて寡小君と曰う。〕
  • 子貢曰、我不人之加諸我也、吾亦欲也。(『論語』公冶長)…(加之於○○我)(加之於○○人)
    〔子貢曰く、我れ人之諸を我に加うるを欲せ不る也、吾れ亦た諸を人に加うる無きを欲する也。〕

の「ショ」は、「之於シオ」の約音であって、意義も「之於」と同じである。「之於」は二辞で二詞だ。「之」は形式名詞で「於」は前置詞性の動詞で、いずれも上の動詞へ関係するものであるが、「之」と「於」の間には、何等の関係がない。ただ位置が相隣しているだけである。

然るに「之於」の二詞が、その音が約まって「諸」となった場合には、その職能は「之」と「於」との二つであるにも拘わらず、詞は一つである。これを名詞(形式名詞)と言えば、「於」の方の意味が承知しない。これを副詞(前置詞)だと言えば、「之」の意味が承知しない。之を名詞兼副詞だと言っては、そんな品詞は前述の五品詞中にはない。そこで、複性詞という一品詞を立てる必要があるのである。

こういう複性詞は英独仏などにもある。

  • There*isa book. ………(there is a)
  • You mustn’t go. ………(must not)
  • Im Garten gibt es eine Blume. ………(in dem)
  • Il est‿ un garçon. ………(est un)

の斜字などがそうだ。みな一詞として発音される。

しかし日本語では、「善くあり」「書いて置く」が約まって「善かり」「書いとく」の類は、複性詞ではない。それは「善く」と「あり」、「書いて」と「置く」は直接に相関係する詞であって、二概念が統合されて一概念化するから、その性能は二性能が一性能化する。こういうものは、次に説明する変態の単性詞であって、複性詞ではない。


there:原文therを改めた。

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