『標準漢文法』022:2-1-1H変態品詞

第一節 品詞(承前)

変態品詞

単性詞に正態詞と変態詞の二種がある。

正態詞とは本来の単性詞を言う。本来、ただ一つの性能を有するものである。例えば「花」という名詞は、本来ただ名詞的性能を有し、「開」という動詞は、本来ただ動詞的性能を有する。

変態詞は、一詞でありながら二つの性能を有し、二性能の一方は一方に従属しており、一方が一方を統率して全体を代表することによって、二性能が一性能化されているものである。例えば

  • 秘書晁監還日本。(王維「送秘書晁監還日本」)
    〔秘書晁監の日本に還るを送る〕

の「還」の類だ。「還」は、晁監の動作を叙述する点は動詞であるが、その「送」に対して送られる客体を表す点は、名詞的である。即ち、動詞的性能を材料として作られた名詞である。

動詞的と名詞的との二性能を持っておっても、その動詞的たる点は、材料として名詞的たる点に従属し、名詞的たる点が、動詞的たる点を統率して、全体を代表しているのであるから、之を全体から見れば、矢張り一つの名詞であると言うことが出来る。決して複性ではなくて、矢張り単性である。

しかしその内部には、材料として動詞的性能が潜んでいるから、名詞ではあっても、動詞的名詞である。こういう品詞を変態品詞という。

  1.  トシテ焉而不トセ其父 トシテ焉而不トセ其君。(韓愈「原道」)
    〔子*し而其の父を父とせ不、臣焉し而其の君を君とせ不。〕

の●は、名詞的性能を含んでいる動詞である。子・父・臣・君という事物を表す点は名詞的性質であるが、しかも

  1. 而不其父、与而不其君

と同義で、1.の「」「」は2.の「為子」「為臣」に当たり、1.の「」「」は2.の「」「」に当たるのである。みな「タリ」は「」の意味に使われている。そうして名詞的意義は材料であって、「」或は「タリ」という動詞的意義が代表的意義であるから、●は名詞ではなくて名詞性動詞だ。これも矢張り変態品詞である。

  • 子張問政。子曰居之無倦、行忠。(論語顔淵
  • 子曰古之学者己、今之学者人。(同憲問

の「以」「為」が、単に「以て」「為に」の意ならば副詞であるが、これは「以てする」の意「為にする」の意であるから、副詞的意義を材料にした動詞である。之を副詞性動詞という。こういうのも変態品詞である。

変態詞は、一詞が二詞と同様の性能を持っている。しかしその二つの性能の内一方が、他の一方を統率して全体を代表しているのであるから、二性能が一性能化される。それゆえ品詞別は、その代表的性能によって之を定めることが出来る。即ち動詞性名詞は名詞であり、名詞性動詞は動詞である。両品詞の合いの子ではない。彼の複性詞とは訳が違う。


焉:私=九去堂は原則として漢文に置き字を認めない=読み手の都合で文字に意味が無いと決めつけない立場なので、焉も「たり」”である”という助動詞、松下文法に従うなら動詞と解釈している。もちろん日本語に置き換えようのない漢字はあるので、置き字全廃論では無い。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

関連記事(一部広告含む)