『標準漢文法』013:1-2-1D詞の単独論

第二節 言語の構成(承前)

詞の単独論

□詞の単独論は、詞の単独に有する諸性質を論ずるものである。その詞は単詞であっても、連詞であってもかまわない。

単詞「山」「川」が名詞である如く、連詞「日本之山」「西洋之河」も名詞であるし、単詞「還」「来」が動詞である如く、連詞「往而還」「去而復来」も動詞であって、その名詞たる所以の用法、動詞たる所以の用法に変わりは無いのであるから、詞の単独論は単詞・連詞に亘ってその性質を論ずべきである。

所謂Etymologyというのはこの意味でなければならなかった。これが単語論と考えられたのは、誤りである。

詞の単独論は、詞と詞の関係をば論じない。併し名詞の格などという様なことは論ずる。格は詞の連詞中に於ける立場を定めるものであるから、他詞と全然無関係なものではないが、その他詞と関係すべき性質だけは、関係しない中にも持っているのであるから、その性質は単独論上の問題である。

詞の単独に有する性質には、本性と副性との二つがある。本性とは、その詞の本然的に有する性質で、その詞がその詞たるに、寸時も欠くことの出来ないものである。その詞から常に離れない〔も〕のである。

例えば「山」という語は、常に事物を表すという性質を持っており、「登」という詞は、常に或る主体の作用を表すという性質を持っている。これらの性質は、その詞の本性である。

副性〔と〕は、本性に憑依して第二次的に生ずる性質であって、それ無しにもその詞が考え得られるものである。例えば「山」という名詞は、「山高」では主語であり、「力抜山」では客語である。その主語たり客語たる性質は、場合によって存し場合によって存しない性質であって、名詞が名詞たるに、絶対に必要なものではない。これらの性質は副性である。

詞の性質を論ずるには、本性と副性とを二章に分けて論ずべきである。

詞の本性は、抽象的にただ性質として論ずることも出来るが、具体的に詞に即して、詞の分類によって論ずる方が適当である。そうして詞の本性には色々ある。我々の捉えなければならない本性は、その断句を構成する上に於いて、重大なる関係を有する根本的なものでなければならない。

この根本的なる本性によって、詞を名詞・動詞・副詞・副体詞・感動詞などと分類し、その各々の種を品詞と名付ける。そこで品詞論は、詞の本性論の一節となる。この品詞別は、更にその本性の小異によって細別される。

例えば名詞を本名詞・代名詞・不定名詞・形式名詞とし、動詞を本動詞・代動詞・不定動詞・形式動詞とする類だ。併しこの細別は、前の品詞別を大別と見たから細別となるのであって、逆に一方を細別と見れば、最初の細別だった方が大別になるので、実は同等の位置にある縦横の関係である。

詞を大別して、本詞・代詞・不定詞・形式詞とすれば、この方が大別であって、その各々に名詞動詞の細別があることになる。そこでこの第二の分類(細別と言った方)も本性論であるから、これも単独論の一節となるのである。


  名詞 動詞 副詞 副体詞 感動詞
本詞 本名詞 本動詞 本副詞 本副体詞 本感動詞
代詞 代名詞 代動詞 代副詞 代副体詞 代感動詞
不定詞 不定名詞 不定動詞 不定副詞 不定副体詞 不定感動詞
形式詞 形式名詞 形式動詞 形式副詞 形式副体詞 形式感動詞

詞の副性は、本性に依拠して存するものである。そうしてこの副性には、連詞又は断句中に於ける自己の立場に関係するものと、関係しないものとの二種がある。前者を格と言い、後者を相という。例えば

  1. 武王○○殷。
  2. 伯夷諌武王○○
  3. 成王父即武王○○

の1.の「武王」は、「伐殷」に対し主語として之に従属し、2.の「武王」は、「諌」に対し客語として之に従属し、いずれも従属的立場にあるが、3.の「武王」は何者にも従属せず、その断句の代表部となって独立的立場に在る。

そうしてこの立場は、他詞との関係上に存するけれども、そういう立場を取り得べき資格は、他詞と関係しない単独の詞たる「武王」にも存している。〔つまり「武王」は、いわゆる主格にも目的格にもなりうる。〕この資格は即ち、格と称する副性である。

  1. 高祖英布
  2. 英布者高祖也。
  3. 英布以叛而
  4. 英布之以叛而、固其所也。

の1.2.の「戮」は、戮する動作で之を原動態といい、3.4.の「戮」は、戮せられる動作で之を被動態という。1.と3.の「戮」は、いずれもその断句を代表して独立し他語へ従属しない立場に在るが、2.と4.の「戮」は独立せずに下の語へ従属する立場に在る。

これによって之を観れば、「原動」「被動」の別は、「戮」という詞の副性ではあるが、その詞の連詞又は断句中に於ける立場に、関係の無いことが明らかである。この原動被動のような、詞の連詞中に於ける立場に関係しない副性を、相というのである。

副性論は、本性論と相対して、詞の単独論の一章を成すものである。


詞の副性 格:自己の立場に関係するもの 主格、客格など
相:自己の立場に関係しないもの 原動態、被動態など

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