『標準漢文法』007:1-1-2D断句の諸相

第二節 言語の構成(承前)

単断句と連断句

□断句に単断句、連断句の二種がある。

単断句

全く単一なる一断句であって、分けて二つ以上の断句にすることの出来ないものを単断句という。例えば

  1. 世有伯楽然後有千里馬。(韓愈「雑説」四劈頭)
    〔世に伯楽有りて、然る後に千里の馬有り。〕
  2. 千里馬常有而伯楽不常有。(同次)
    〔千里馬は常に有れど、し而伯楽は常には有ら不。〕
  3. 故雖名馬祇辱於奴隷人之手駢死於槽櫪之間千里也。(同次)
    〔故に名馬有ると雖も、だ奴隷人之手於辱められ、槽櫪之間於ならびて死し、千里を以て称えられ不る也。〕
  4. 馬之千里者一食或尽粟一石。(同次)
    〔馬之千里なる者は、一食に或いは粟一石を尽さん。〕
  5. 馬者不其能千里而食也。
    〔馬をやしなう者、其の能く千里なるを知り而食わ不る也。〕
  6. 是馬也、雖千里之能食不飽力不足才美不外見、且欲常馬得。(同次)
    〔是の馬なる也、千里之能有りと雖も、食いて飽か不らば力足ら不、才の美き外に見われ不、且つ常の馬与等しきを欲するも得可から不。〕
  7. 安求其能千里也。(同次)
    〔安んぞ其の能く千里なるを求めん也。〕
  8. 之不其道、食之不其材、鳴之不其意。(同次)
    〔之に策つに其の道を以い不、之を食うに其の材を尽す能わ不、之に鳴くとも其の意を通じる能わ不。〕
  9. 策而臨之曰、天下無良馬。(同次)
    〔策を執り而之に臨みて曰く、天下に良馬無しと。〕
  10. 嗚呼、其真無馬邪。(同次)
    〔嗚呼、其れ真に馬無き邪。〕
  11. 其真不馬邪。(同次)
    〔其れ真に馬を識ら不る邪。〕

などは一つの単断句である。

単断句はその表す断定の種類の如何によって次の如く分かたれる。

単断句 思惟性 有題的…孔子者聖人也。
無題的…孔子嘗為乗田矣。
直観性 概念的…天津橋下陽春水。
主観的…嗚呼。

連断句

連断句は二つ以上の断句が相関係して一断句となったもので、その内部から言えば二つ以上の断句に分解し得べきものである。例えば

  • 敢問如何イカナレバコゝニ。(『孟子』尽心下)
    〔敢えて問う、如何なれば斯に仁と謂う可き矣。〕

の様なのが連断句である。全体が一つの断句であるがその内部に於いては、  も一つの断句であり、  も一つの断句であって二断句に分解される。しかし外部から見れば、    と合体して一断句である。何となれば    に従属し  が全体を代表するからである。

  だけについて言えば「失礼ながらお尋ねします」という意であって、自己としては立派に意味が終止している。然るに其れが  に従属すると言うのは、    と同じ事柄をあらわすものであるからである。

  は問いそのものであるが、    の問いであることを表示する。  が店ならば  は看板である。  が手紙ならば  ウワきである。手紙と表書きとで一通の手紙である。二通ではない。

  • 舜不象之將殺一レ己與。(『孟子』万章上)
    〔識ら不、舜象之將に己れを殺さんとするを知ら不る與。〕
  • 此非君子之言齊東野人之語也。(同)
    〔否、此れ君子之言に非ず、齊東野人之語也。〕
  • 天下殆哉岌岌乎。(斉東野語)
    天下殆き哉、キュウ岌乎たり。
  • 惜乎吾見其進也未見其止。(『論語』子罕
    〔惜しい乎、吾れ其の進むを見る也、未だ其の止るを見ざる也。〕
  • 已矣ヤメヨ将軍勿復言。(『史記』白起王翦列伝)
    〔已め矣、将軍復た言う勿れ。〕
  • 嗟乎アゝ法之敝一至此哉。(『史記』商君列伝)
    〔嗟乎、法を為る之敝たる、一に此に至る哉。〕

なども連断句である。  は自己としては一断句であるが、  の事柄についての表示であるために従属化する。

私は普通の日本文典で言う単文複文重文などという区別は要らないことだと思う。ただこの単断句連断句および次に言う単流並流の別を必要と思う。

この問題に関しては、なお〔■原746-750頁〕に詳論する。

単流断句と並流断句

□断句に単流断句と並流断句の二種がある。

単流断句

観念流の単一な断定を表す断句を単流断句という。例えば

  1. 大凡物不其平則鳴。(韓愈「送孟東野序」)
    大凡およそ物の其の平らかなるを得不るは則ち鳴る。〕
  2. 人之於言也亦然。(同)
    〔人之言に於ける也亦た然り。〕

の類だ。

並流断句

二系以上の観念流が一系に統一されている単断句を並流断句という。例えば杜牧之の阿房宮の賦の

  • 歌臺暖響、春光融融、┬→
    舞殿冷袖、風雨悽悽。┘
  • 一日之內┬而氣候不齊。
    一宮之間┘
  • 妃嬪┬┬辭樓┬輦來於秦┬朝歌┬爲秦宮人。
    媵嬙┤└下殿┘    └夜弦┘
    王子┤
    皇孫┘
  • 煙斜┬焚椒蘭也。
    霧橫┘
  • 燕趙之收藏┬┬幾世┬剽掠其人、倚疊如山。
    韓魏之經營┤└幾年┘
    齊楚之精英┘
  • 使┬負棟之柱多於南畝之農夫┬→
    ├架樑之椽多於機上之工女┤
    ├釘頭磷磷多於在庾之粟粒┤
    ├瓦縫參差多於周身之帛縷┤
    ├直欄┬多於九土之城郭─┤
    ├橫檻┘
    └管絃嘔啞多於市人之言語┘
  • 使天下之人不┬敢言─┬→
    └而敢怒┘
  • 獨夫之心日益驕固┬戍卒叫函谷舉──┬→
    └楚人一炬可憐焦土┘
  • 嗚呼滅六國者┬六國也。→
    └非秦也。→
  • 族秦者┬秦也。──→
    └非天下也。→

原文・書き下し・現代語訳


これら二つ以上の観念流は、分岐するか結合するか、あるいはその二つを兼ねるかであるが、いずれも全く無関係なる二つ以上の流れではなく、初め一つであったものが二つ以上に分かれるか、二つ以上のものが後に一つに合するか、あるいは中途に於いてのみ分かれているかであって、初めか終わりか一度は同一意識内に統一されるのである。そう言うのを並流という。

並流は同一断句中のいずれかの処に於いて一つの流れに統一されなければならない。もし全く統一されないならば、それは別々のものであって並流ではない。例えば

  • 明星熒熒開妝鏡也。
    〔明星の熒熒たるは妝鏡を開く也。〕
  • 綠雲擾擾梳曉鬟也。
    〔綠雲の擾擾たるは曉にみずらくしけずる也。〕
  • 渭流漲膩棄脂水也。
    〔渭流の膩を漲らすは脂水を棄つる也。〕
  • 煙斜霧橫焚椒蘭也。
    〔煙斜めにして霧橫たわるは椒蘭を焚く也。〕

この四つは阿房宮賦中の一段であるが、四つの断句であるから並流ではない。一つの断句の内部に於いて四流に分かれた処があるのでなければ並流ではない。

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