『漢文研究要訣』001:1-3白文訓読と造句法(1)対偶法

凡ての白文を訓読しようとするに際して、最も捷径であり適切であり確実であるのは、造句法から考察することである。造句法の概要に熟達していれば、いかに未見の白文でも、容易に訓読できるのは、私の経験上から確信して疑わない。

もともと漢文の句法というものは、古今諸家による解説が頗る多い。あるいは句と句の排列上から説いたものがあり、あるいは一句の構造上からみたものもある。従ってその項目なども多様多種で、適従採択に苦しむ。

対して本書では造句法を述べるが、それを詳細精密に論究するのは、本書の目的ではないから、末節細葉にわたる煩わしさを一切省略して、ただ白文の訓読に緊要適切なものだけについて、その実際や運用の方法を述べることにする。

一 対偶法

白文訓読に最も緊切なのはこの句法である。もしこれを巧みに応用出来れば、白文の大部分はほとんど解説されると言ってよろしい。蓋し漢文というものが、この句法によってその大部分が構成されているからである。

対偶法は、あるいは排偶法ともいい、また単に、対句、対語ともいう。文辞の整正と語句の綺麗と通読の流暢を重んじており、あるいは長句と短句を錯綜させ、あるいは正説と反説を対照させと、さまざまの形式がある。而して対偶の主眼は、四字句と六字句である。

かの四六駢儷文などはもちろんのこと、普通の散文中に於いても、四字句と六字句とが甚だ多いことを、よく知っておくがよろしい。以下各種の例について之を示そう。

  • 知者創物能者述焉非一人而成也君子之於學百工之於技自三代歷漢至唐而備矣故詩至於杜子美文至於韓退之書至於顏魯公畫至於吳道子而古今之變天下之能事畢矣道子畫人物如以燈取影逆來順往旁見側出橫斜平直各相乘除得自然之數不差毫末出新意於法度之中寄妙理於豪放之外所謂遊刃餘地運斤成風蓋古今一人而已(蘇軾「書吳道子畫後」)

これを分解してみると下のような対偶法によって構成されていることが分かる。

  • 知者創物┳非一人而成也。
    能者述焉┛
  • 君子之於學┳自三代歷漢至唐而備矣。
    百工之於技┛
  • 故┳詩至於杜子美┳而┳古今之變 ┳畢矣。
    ┣文至於韓退之┫ ┗天下之能事┛
    ┣書至於顏魯公┫
    ┗畫至於吳道子┛
  • 道子畫人物如以燈取影┳逆來┳┳旁見┳┳橫斜┳各相乘除、得自然之數、不差毫末。
    ┗順往┛┗側出┛┗平直┛
  • 出新意於法度之中┳。
    寄妙理於豪放之外┛
  • 所謂┳遊刃餘地┳蓋古今一人而已。
    ┗運斤成風┛

こう書いてみると、その全文が対偶法から出来ているから、誰でも容易に訓読できる。


知者の物をはじめ、能者の述べれば、一人にし而成すに非る也。君子之學に於ける、百工之技に於けるは、三代自り漢を歷て唐に至り而備わるなり。故に詩は杜子美至り、文は韓退之於至り、書は顏魯公於至り、畫は吳道子於至り、し而古今之變、天下之能事畢れ。道子の人物を畫くは、燈を以て影を取るが如く、來るを逆え往くに順い、旁に見て側に出だし、橫・斜・平・直、各の相い乘除し、自然之數を得て、毫末もたがえ不、新意を法度之中於出だし、妙理を豪放之外於寄す。所謂、「刃を遊ばす餘地のあり、斤を運びて風を成す」は、蓋し古今一人而已のみ

杜子美:=杜甫。あざ名が子美。

顏魯公:=顔真卿。

吳道子:=呉道玄。


次の例も同様に並べて、対偶を考えれば極めて容易である。

  • 某聞木在山馬在肆遇之而不顧者雖日累千萬人未為不材與下乘也及至匠石過之而不睨伯樂遇之而不顧然後知其非棟梁之材超逸之足也以某在公之宇下非一日而又辱居姻婭之後是生於匠石之園長於伯樂之廄者也於是而不得知假有見知者千萬人亦何足耳(韓愈「為人求薦書」)
  • 某聞┳木在山┳遇之而不顧者、雖日累千萬人、未為┳不材與┳也。
    ┗馬在肆┛                ┗下乘 ┛
  • 及至┳匠石過之而不睨┳然後知其非┳棟梁之材┳也。
    ┗伯樂遇之而不顧┛     ┗超逸之足┛
  • 以某┳在公之宇下非一日┳是┳生於匠石之園┳者也。
    ┗而又辱居姻婭之後┛ ┗長於伯樂之廄┛
  • 於是而不得知、假有見知者千萬人、亦何足耳。

某聞くならく、木は山に在り、馬は肆に在り、之に遇い而顧不る者、日に千萬人を累ぬると雖雖も、未だ材なら不與、下乘なりと為さざる也。匠石之を過ぎり而睨ま不、伯樂之に遇い而顧み不るに至るに及びて、然る後に其の棟梁之材、超逸之足に非るを知る也と。某を以て公之宇下在ること一日に非ず、し而又姻婭之しりえに居るを辱のうするは、是れ匠石之園於生まれて、伯樂之廄於長うる者也。是に於いて、し而知るを得不るは、假い見て知る者千萬人有るも、亦た何ぞ足る耳ならん。

下乘:足ののろい馬。ダメな馬。

匠石:いにしえの名工。

超逸:とびぬけてすぐれている。

姻婭:姻は婿の父、婭はあい婿。転じて、身内・縁者。

辱:かたじけない(かたじけなし)。かたじけなくする(かたじけなくす)。相手が体面をけがしてまで、おやりくださったという意をそえる語。ありがたい。申しわけない。「辱臨」「辱知」。


次の例。

  • 人皆寐則盲者不知皆嘿則喑者不知覺而使之視問而使之對則喑盲者窮矣不聽其言也則無術者不知不任其身也則不肖者不知聽其言而求其當任其身而責其功則無術不肖者窮矣夫欲得力士而聽其自言雖庸人與烏獲不可別也授之以鼎俎則罷健效矣故官職者能士之鼎俎也任之以事而愚智分矣故無術者得於不用不肖者得於不任(『韓非子』六反)

一瞥しただけでは容易に読めそうにないが、次のように分解すると、全文ほとんど対偶だから、一目瞭然となる。

  • 人┳皆寐則盲者不知┳┳覺而使之視┳則┳喑┳者窮矣。
    ┗皆嘿則喑者不知┛┗問而使之對┛ ┗盲┛
  • 不聽其言也則無術者不知┳┳聽其言而求其當┳則┳無術┳者窮矣。
    不任其身也則不肖者不知┛┗任其身而責其功┛ ┗不肖┛
  • 夫欲得力士而聽其自言、雖庸人與烏獲不可別也。
  • 授之以鼎俎則罷健效矣━故官職者能士之鼎俎也
    任之以事而愚智分矣━故無術者得於不用不肖者得於不任。

人皆寐ぬれば則ち盲者も知られ不、皆まれば則ち喑者も知られ不。覺め而之を視使め、問い而之を對え使むれば、則ち喑盲の者窮する矣。其の言を聽か不る也、則ち術無き者知られ不。其の身に任せ不る也、則肖不る者知られ不。其の言を聽聽き而其の當を求め、其の身に任せ而其の功を責むれば、則ち術無く肖不る者窮する矣。夫れ力士を得んと欲欲し而其の自ら言うを聽かば、庸人と雖も烏獲與別つ可から不る也。之に授くるに鼎俎を以いば、則ち罷健あらわる矣。故に官職なる者は、能き士之鼎俎也。之に任ずるに事を以いば、し而愚智分るる矣。故に術無き者は用い不る於得、肖不る者は任ぜ不る於得。

烏獲:戦国時代、秦の武王に仕えた力もちの勇士。千鈞(センキン)の重さのものを持ちあげたという。

罷健:力無しと力持ち。


次の例。

  • 唐太宗嘗問侍臣創業守成孰難玄齡曰草昧之初羣雄竝起角力而後臣之創業難矣魏徵曰自古帝王莫不得之於艱難失之於安逸守成難矣上曰玄齡與吾共取天下出百死得壹(弌,壹)生故知創業之難徵與吾共安天下常恐驕奢生於冨貴禍亂生於所忽故知守成之難然創業之難徃矣守成之難方與諸公愼之(『十八史略』唐太宗)

これを以下のように分解して考察すれば、極めて明白となって確実な訓読が出来るだろう。

  • 唐太宗嘗問侍臣。
  • 創業┳孰難。
    守成┛
  • 玄齡曰、草昧之初、羣雄竝起、角力而後臣之。創業難矣。
    魏徵曰、自古帝王、莫不┳得之於艱難┳━━━守成難矣。
    ┗失之於安逸┛
  • 上曰┳玄齡與吾共取天下┳出百死┳━━━━故知創業之難。
    ┃        ┗得一生┛
    ┗徵與吾共安天下常恐┳驕奢生於冨貴┳故知守成之難。
    ┗禍亂生於所忽┛
  • 然┳創業之難徃矣
    ┗守成之難方與諸公愼之。

唐太宗、嘗て侍臣に創業守成孰れか難きを問う。玄齡曰く、草昧之初め、羣雄竝に起ち、力をあらそい而後之を臣とす。創業難き矣と。魏徵曰く、古自り帝王、之を艱難於得て之を安逸於失わ不るは莫し。守成難き矣と。上曰く、玄齡吾與共に天下を取り、百死に出でて一生を得、故に創業之難を知る。徵吾與共に天下を安んじて、常に驕奢の冨貴於生まれ、禍亂の忽せにする所於生じるを恐る、故に守成之難を知る。然るに創業之難は徃け、守成之難は方に諸公與之を愼しまんと。

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