『漢文研究要訣』013:1-4白文訓読と造語法(6)推定格の語法

三 推定格の語法

推定格とは、事物の性質・能力・情勢などについて、推量または断定の意を表す語法である。之にも種々の語法があるが、普通用いられる例について述べる。

宜・須・当・応・合

よろしク~ベシ

  • 惟仁者宜在高位。(『孟子』離婁上)
    〔惟だ仁者のみ宜く高位に在るべし。〕
  • 宜付有司、論刑賞、以昭陛下平明之治。(諸葛亮「出師表」)
    〔宜く有司に付け、刑賞を論じ、以て陛下平明之治を昭かにすべし。〕

すべからク~ベシ

  • 夫學須靜也。才須學也。(『小学』嘉言)
    〔夫れ學は須く靜か也るべし。才は須く學ぶ也るべし。〕
  • 但公等不幸。須忍死以待。(『十八史略』不明)
    〔但だ公等不幸なり。須く死を忍びて以て待つべし。〕

まさ(當)ニ~ベシ

  • 孟子曰、言人之不善、當如後患何。(『孟子』離婁下)
    〔孟子曰く、人之不善を言うは、當に後の患いや如何すべき。〕
  • 當奬率三軍、北定中原。(諸葛亮「出師表」)
    〔當に三軍を奬め率て、北のかた中原を定めん。〕

まさ(應)ニ~ベシ

  • 尚有綈袍贈、應憐范叔寒。(高適「詠史」)
    〔尚お綈袍の贈る有り、應に范叔の寒を憐れむなるべし。〕
  • 興水利則曰、東海若知明主意。應教斥鹵變桑田。(『十八史略』北宋)
    〔水利を興して則ち曰く、東海もて明主の意知るが若し。應に鹵を斥して桑田に變えむべし。〕

まさニ~ベシ

  • 霜禽欲下先偸眼、粉蝶如知合斷魂。(林逋「山園小梅二首 其一」)
    〔霜禽先づ下らんと欲して眼を偸み、粉蝶し知らば合に魂を斷つべし。〕
  • 桑穀野木而不合生朝。(『孔子家語』五儀解
    〔桑穀は野の木にし而、合に朝に生ずべから不。〕

能・克

能の字は、その能力の事に任うるを推定するのに用いる。

  • 孟施舍豈能為必勝哉。能無懼而已矣。(『孟子』公孫丑上)
    〔孟施舍豈に能く必勝を為さん哉。能く懼るる無き而已矣。〕
  • 吾未見能見其過而、內自訟者也。(『論語』公冶長
    〔吾れ未だ能く其の過ちを見而、內に自ら訟むる者を見ざる也。〕
  • 不嗜殺人者能一之。(『孟子』梁恵王上)
    〔人を殺すを嗜ま不る者、能く之を一にせん。〕

克(よク)

克の字は打ち克つの意だから、能よりは強いとも言える。古書に多く用いられる。

  • 康誥曰、克明德。太甲曰、顧諟天之明命。(『大学』)
    〔康コウに曰く、克く德を明らかにす。太甲に曰く、天之明命をおもただす。〕
  • 帝典曰、克明峻德。皆自明也。(『大学』)
    〔帝典に曰く、克く峻德を明らかにす。皆自ら明らか也。〕

得・可・足

得(う)

得の字は「成し得る」という推定を表す。

  • 使遂得處嚢中、乃頴脫而出。(『十八史略』戦国平原君)
    〔遂を使て嚢中に處らしむるを得ば、乃頴脫し而出でん。〕
  • 齊桓、晉文之事、可得聞乎。(『孟子』梁恵王上
    〔齊桓、晉文之事、得て聞く可き乎。〕
  • 爾處以得不死者。以綈袍戀戀。尚有故人之意爾。(『十八史略』戦国秦)
    〔爾の不死を得る所以、綈袍の戀戀たるを以て、尚お故人之意有るのみ。(綈袍戀戀:綿入れにこもった好意。)〕

次の例は「得而」と動詞に用いただけで、意味は同じ。

  • 夫子之文章、可得而聞也。(『論語』公冶長
    〔夫子之文章は、得而聞く可き也。〕
  • 仲尼日月也。無得而踰焉。(『論語』子張
    〔仲尼は日月也。得而踰ゆる無き焉。〕

可(べシ)

次の例は、可能の意味で、「成し得る」と同様の意味になる。口語では…られる、または…られない、の意。

  • 寡固不可以敵眾。(『孟子』梁恵王上
    〔寡固り以て眾に敵う可から不。〕
  • 民可使由之、不可使知之。(『論語』泰伯
    〔民之を由ら使む可し、之を知ら使む可から不。〕
  • 三軍可奪帥也、匹夫不可奪志也。(『論語』子罕
    〔三軍帥を奪う可き也、匹夫も志を奪う可から不る也。〕

次の例は、可否の可で、そうするが「よろしい」、もしくは「よろしくなさい」の意。

  • 汝可疾去矣、且見禽。(『史記』商君伝)
    〔汝疾く去る可き矣、且にとらんとす。〕
  • 邠人曰、仁人也、不可失也。(『孟子』梁恵王下)
    〔邠人曰く、仁人也、失う可から不る也と。〕
  • 聞子厚之風、亦可以少媿矣。(韓愈「柳子厚墓誌銘」)
    〔子厚之風を聞かば、亦た以て少しは媿づ可き矣。〕

次の例は、命令の「べし」。

  • 嗣子可輔輔之。如其不可、君可自取。(『十八史略』三国蜀)
    〔嗣子輔け可くんば之を輔けよ。如し其れ可なら不らば、君自ら取る可し。〕
  • 父母之年、不可不知也。(『論語』里仁
    〔父母之年は、知ら不る可から不る也。〕

次の例は、推量の「…だろう。」

  • 加我數年、五十以學易、可以無大過矣。(『論語』述而
    〔我に數年を加え、五十以て易を學ばば、以て大過無かる可き矣。〕
  • 君子博學於文、約之以禮、亦可以弗畔矣夫。(『論語』雍也
    〔君子は博く文於學び、之を約むるに禮を以いば、亦た以て畔か弗る可き矣る夫。〕
  • 百畝之田、勿奪其時、數口之家可以無飢矣。(『孟子』梁恵王上
    〔百畝之田、其の時を奪う勿からば、數口之家、以て飢うる無かる可き矣。〕

次の例は、名詞に転化して用いたもの。

  • 願比死者一洒之、如之何則可。(『孟子』梁恵王上
    〔願わくば死するのころあい、一たび之を洒がん、之を如何ぞ則し可ならん。〕
  • 人而無信、不知其可也。(『論語』為政
    〔人にし而信無くんば、其の可を知ら不る也。〕
  • 左右皆曰賢、未可也。諸大夫皆曰賢、未可也。(『孟子』梁恵王下)
    〔左右皆な賢しと曰うも、未だ可ならざる也。諸大夫皆な賢しと曰うも、未だ可ならざる也。〕
  • 左右皆曰不可、勿聽。諸大夫皆曰不可、勿聽。(『孟子』梁恵王下)
    〔左右皆な可から不と曰うも、聽く勿れ。諸大夫皆な可から不と曰うも、聽く勿れ。〕

足(たル)

足も可能の推定を表す。

力足以舉百鈞。明足以察秋毫之末。(『孟子』梁恵王上
〔力は以て百鈞を舉ぐるに足る。明は以て秋毫之末を察るに足る。〕

今恩足以及禽獸、而功不至於百姓者、獨何與。(『孟子』梁恵王上
〔今恩は以て禽獸に及ぶに足り、し而功は百姓於至ら不る者、獨り何ぞ。〕

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

関連記事(一部広告含む)