第二節 名詞の小分〔承前〕
代名詞の小分
代名詞は「我」「汝」「彼」「此」の様な類で、或る基準に由って指示的に間接に事物を表示するものである。そうしてその実質的意義は、場合場合によって一定しない。代名詞の主要なものは、人称代名詞、位置代名詞の二種であるが、その外にも種々ある。
人称代名詞
人称代名詞は説話者が自己を基準として人を指示する代名詞である。「我」の如く自己を指示するものを第一人称と言い、「汝」の如く説話の対者を指示するものを第二人称と言い、「彼」の如く説話者聴話者以外の人を指示するものを第三人称と言う。
〔第一人称〕
第一人称には「我」の外に「吾」「余」「予」「僕」「朕」「台」「寡人」「不穀」「孤」「不肖」「愚」「小子」「妾」などがある。
「我」は最も一般的な語で尊卑の意が無い。「吾」も同様であるが「彼我」「物与我」「吾人」などの如く用いられて「我」は彼或は物に対し「吾」は他人に対する様な味がある。「余」と「予」とは同義だ。微弱ながら謙称である。「朕」は天子の専用、「寡人」「不穀」「孤」は諸侯の専用、「妾」は女子の専用である。「台」は極古く尚書などに用いられただけである。音が怡で予の通音だろうという。この外「臣」「児」「鄙人」「生」などの本名詞が代名詞化して用いられるものがある。
〔第二人称〕
第二人称には「汝」の外に「女」「而」「爾」「乃」「若」などがある。名詞より転じたものに「子」「吾子」「兄」「公」「卿」などがある。「君」「足下」「先生」「大人」「閣下」「殿下」「陛下」などの名詞も代名詞化して用いられるが、これは第三人称なる場合もある。
「女」は「汝」と同音で全く同じだ。「而」と「爾」とも同音だが、「汝」の類音であって「汝」と同語源だ。「而」と「乃」とは多く「なんぢの」という意の時(連体格)に用いられている。
ある本に「而」と「乃」は必ず名詞の上に置かれ「なんぢの」の意に用いられると書いてあったが、そうは限らない。例えば
- 且而与三其従二辟レ人之士一也豈若レ従二辟レ世之士一哉(『論語』微子)
〔且つなんじ人を辟けるの士に従うよりは、豈世を辟けるの士に従うが若からんや。〕 - 王曰而敢来何也。(『春秋左氏伝』昭公二十年三月)
〔王曰く、なんじ敢えて来たるは何ぞ也。〕 - 夫差志レ復レ讎朝夕臥二薪中一出入使レ人呼曰、夫差而忘三越人之殺二而父一邪。(『十八史略』呉)
〔夫差讎を復せんと志し、朝夕薪中に臥て、出入するに人を使て呼ばしめて曰く、夫差なんじは越人之なんじの父を殺したるを忘れし邪と。〕 - 王若曰、君牙乃惟由二先正旧典一時式、民之治乱在レ茲。(『周書』君牙)
〔王若曰く、君牙なんじ惟だ先正旧典に由る、これ式いば、民之治乱茲に在り。〕
の様な例があるのである。しかし大抵は「なんぢの」の意に用いられている。
〔第三人称〕
第三人称には「彼」「渠」「夫」「他」「がある。「彼」は最も普通に用いられる。「渠」は俗語で多少侮る意がある。「夫」は「彼」と類音であるが、まれに用いられている。「他」は後世の俗文に用いられる。