第二節 文法学の体系
文法学の範囲
文法学は言語の構成法則の研究である。ゆえに言語の構成法則以外の事は文法学の範囲外である。
言語には声音を以て思想を表したもの即ち声音語と、さらにそれを文字に表したもの即ち文字語との二種がある。声音、思念、文字の三者は言語そのものではないが、言語の構成に関係がある。その関係のある点だけは文法学の取り扱う範囲内である。言語の構成に関係のない点は文法学で論ずべきものではない。
声音そのものの研究には別に声音学がある。声音の、文法学に於いて研究すべき事項は言語の、声音に対する特殊の取り扱いである。
例えば仮音及び音の転変の問題等である。仮音とは日本語で声音学的にシャ行である「シ」を文法的にサ行のイ列とし、声音学的にパ行の濁点たる「バ」を文法的にハ行の濁音として取り扱うような類*を言い、音の転変とは音便、通音、約音などを言う。これら固より文法学上の問題である。
併し漢文法に於いては此れ等の問題には殆ど触れない。支那人が漢文法を研究する場合に於いては、若干此れ等の問題も存するのであるが、日本人の漢文法に於いては、此れ等は全然関係が無い。
文字そのものの研究は、文字学の問題である。文法に於いて取り扱う点は、ただ文字を以て言語を写す方法である。これには文字の種別、句読法、また日本読みの漢文に在っては顛倒法、訓点法、捨仮名法などの問題がある。
思念の問題は心理学、論理学、認識論等に属する。文法学に於いてはその言語との関係だけである。即ち観念、概念、断定の成立を論ずれば足りるのである。
仮音とは…類:サ行のイ列は「スィ」であるはずが、五十音排列では「シ」になっている。日本語のシをローマ字化するとき、Siと書かずにShiと書くのはこれが理由。同様にハに濁点をつけた音=有気音は仮名に出来ず、国際発音記号でɦと書かれる音になる。パPaが有気音になってバBaになるのだから、本来バはパに濁点と書くのが適当。
なお奈良時代以前は、ハ行はPa Pi Pu Pe Poと発音されていたらしい。
文法学の部門
文法学は他の諸科学と同様、総論と各論との二編に分かたれなければならない。そうして各論には詞の単独論と詞の相関論との二つが見いだされる。
文法学 | 総論 | ||
各論 | 詞の単独論 | 詞の本性論 | |
詞の副性論 | |||
詞の相関論 | 連詞の成分論 | ||
成分の統合論 | |||
成分の排列論 |